2022-07-01

不動産投資で税金対策は可能?節税の仕組みをわかりやすく説明

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不動産投資を始めるにあたって、税金対策が気になる方も多いのではないでしょうか。所得税、贈与税、相続税といった税金が発生するなかで、節税の仕組みをよく理解することが大切です。

本記事では、不動産投資における税金対策の方法を8つ紹介します。また、節税効果を十分に得られる人の特徴や、税金対策の失敗事例もまとめているので参考にしてみてください。

不動産投資における税金対策の方法

はじめに、不動産投資の税金対策について紹介します。8つの対策方法を列挙し、それぞれのポイントをまとめていきます。

①:減価償却費計上による損益通算

1つ目の税金対策方法は、減価償却費計上による損益通算です。減価償却費とは、不動産の取得費用を定められた法定耐用年数に分割し、経費として計上したものです。

以下のとおり、住居用建物の構造別に耐用年数が決まっています。

主な住居用建物の耐用年数(※1)

木造建築
22年
木造モルタル造
20年
RC(鉄筋コンクリート造)
SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)
47年
レンガ造・石造・ブロック造
38年
重量鉄骨
34年(4mm以上の場合)
軽量鉄骨
27年(3mm超4mm以下の場合)

②:その他経費の計上

不動産では、減価償却費だけでなく、そのほかの経費も計上可能です。ただし、以下の経費を計上する際には、領収書が必要となるので忘れずに保管しておきましょう。

・固定資産税

・都市計画税

・修繕費

・損害保険料

・借入金金利

・管理費

・入居者募集のための広告費

・税理士の費用

・その他清掃、消耗品の購入費など

③:不動産のまま贈与する

不動産を現金化するのではなく、不動産のまま贈与することで節税効果を高められます。仮に、1億円の評価額がついた不動産を売却・現金化して贈与する場合、400万円の控除額を差し引いた額の55%が課税対象です。

贈与税の速算表(※2)

基礎控除後の課税価格
税率 控除
200万円以下
10%

300万円以下
15%
10万円
400万円以下
20%
25万円
600万円以下
30%
65万円
1,000万円以下
40%
125万円
1,500万円以下
45%
175万円
3,000万円以下
50%
250万円
3,000万円超
55%
400万円

一方、不動産のまま贈与する際には、国税庁が定めた「相続税評価額」が用いられます。相続税評価額は、不動産の時価よりも低く計算されることが多く、現金化するよりも納税額を安く済ませられる可能性があります。

④:配偶者の税額軽減制度を使う

「配偶者の税額軽減制度」とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、「1億6000万円」と「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。配偶者が遺産分割によって取得した財産をもとに計算されます。

1点気をつけておきたいのが、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象にならないことです。詳しくは下記の国税庁HPで詳しく書かれているので、参考にしてみてください。(※3)

配偶者の税額の軽減

⑤:不動産を5年と1日以上保有する

不動産投資における売却益に対して課せられる「譲渡税」を節税する方法があります。譲渡税は、5年を境に保有しているか、保有していないかで税率が異なります。以下の表のとおり、不動産投資の税金対策を強化したい場合には、5年と1日以上の長期譲渡を推奨します。

譲渡所得の計算のしかた(※4)

 
所得税
住民税 合計
短期譲渡(5年以下)
30.63%
9%
39.63%
長期譲渡(5年と1日以上)
15.315%
5%
20.315%

⑥:サラリーマン大家の法人化

普段は会社員として働きつつ、不動産投資で家賃収入を得ているサラリーマン大家の方も多いのではないでしょうか。不動産事業を法人化することで、税金対策につなげられる可能性があります。法人化した場合、以下のように課税所得に対して法人税が課せられます。個人で不動産事業を行う場合、最大55%(所得税率+住民税率)が課せられる一方で、法人化すれば最大33.58%(法人税実効税率)まで税金を抑えられます。

資本金1億円以下の法人税税率(※5)

年800万円以下の部分
下記以外の法人
15%
年800万円以下の部分 適用除外事業者
19%
年800万円超の部分
23.2%

⑦:青色申告で確定申告を行う

税金対策を重視する方は、青色申告で確定申告を済ませるようにしましょう。確定申告には、「白色申告」と「青色申告」の2種類があり、複式帳簿による記帳が必要な分、青色申告には税金対策におけるメリットがあります。

青色申告のメリットを活用した税金対策

・青色申告特別控除が「最高65万円」

・青色事業専従者給与を必要経費にできる

・純損失の繰越しと繰戻しができる

青色申告で確定申告を行うことで、最高65万円の特別控除を受けられます。また、配偶者や親族に支払った「青色事業専従者給与」を経費として、所得から控除することができます。純損失の繰越しや繰戻しが適用されるので、前年度分の赤字を今年度分の黒字と相殺することも可能です。

⑧:海外不動産を保有している場合は外国税額控除制度を使う

最後に、海外不動産投資で発生した税金については、「外国税額控除制度」も活用してみてください。日本と「租税条約」を締結している国であれば、日本と海外現地における二重課税を防げます。

外国税額控除制度を利用するためには、日本国内での確定申告時に「外国税額控除明細書」を作成します。事前に海外で納税した分の税金を控除し、二重課税を防ぎます。

海外不動産の税金や節税対策については、下記の記事もご覧ください。

海外不動産の税金をパターン別に紹介!節税対策や確定申告の方法は?

不動産投資で税金対策を期待できる人

ここまで不動産投資における税金対策を紹介しましたが、一部の対策については、節税効果を期待できる人とそうでない人が出てしまいます。節税効果を得るためにも、条件に当てはまるかを確認しておきましょう。

課税所得が900万円(年収約1200万円)を超える人

法人化を検討している方は、現状の課税所得を確認する必要があります。というのも、所得税率と法人税率を比較して、後者の方が高かった場合には十分な節税効果を得られないためです。

・サラリーマン大家が法人化した方が良いライン

法人化で節税効果を期待できるラインは、サラリーマンとしての課税所得が900万円(年収約1200万円)を超える人です。下記の表のとおり、課税所得が900万円、かつ現在保有している不動産が黒字の場合、個人に課せられる所得税は33%を超えるほか、住民税も課せられます。

そこで、不動産事業に関して法人化することで、家賃収入や売却益にかかる税率を最大33.58%(法人税実効税率)まで下げられます。ただし、法人化に伴う登記費用や社会保険の加入、法人住民税などが発生する点に注意が必要です。

個人所得税税率(※6)

課税所得金額
税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで
5%
0円
1,950,000円から3,299,000円まで
10%
97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで
20%
427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで
23%
636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで
33%
1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで
40%
2,796,000円
40,000,000円以上
45%
4,796,000円

木造物件で不動産投資を行っている人

木造物件で不動産投資を行っている方は、減価償却費による節税効果を得られる可能性が高まります。木造建築の法定耐用年数は、ほかの建築構造よりも短く、1年あたりの減価償却費が高額になりやすいです。

また、中古物件の場合、耐用年数を過ぎたあとは、法定耐用年数×20%の年数で減価償却費を計上できます。たとえば、1000万円の木造建築を購入した場合、4年間の減価償却期間が設けられ、年間250万円の経費計上が可能です。

主な住居用建物の建物の耐用年数(※1)

木造建築
22年
木造モルタル造
20年
RC(鉄筋コンクリート造)
SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)
47年
レンガ造・石造・ブロック造
38年
重量鉄骨
34年(4mm以上の場合)
軽量鉄骨
27年(3mm超4mm以下の場合)

不動産投資の税金対策における失敗事例

不動産投資で税金対策は、必ずしも成功するとは限りません。失敗事例を参考にしながら、どのような方法を取るべきか考えるようにしましょう。

新築の区分マンションを購入したケース

不動産投資の税金対策で失敗した例に、新築マンションを購入したケースが挙げられます。前述したとおり、節税効果を得るためには、減価償却費を経費に計上するかがポイントです。

しかし、区分の新築マンションを購入した場合、ほとんどのケースで「RC・SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)」の47年に該当し、1年ごとに経費として計上可能な減価償却費も限られます。また、サラリーマンで高収入の方は、さらに高い税金を納税する必要があります。

不動産投資2年目以降の節税計画を考えていなかったケース

不動産投資で税金対策を重視する方は、2年目以降の節税計画を立てましょう。1年目は、不動産購入費用や登記費用、金融機関の手数料など、多額の経費が発生します。

一方、不動産投資2年目以降は、減価償却費や管理費用といった経費に限られるため、節税効果を得られない可能性があります。年々節税効果が弱まり、黒字化した段階で不動産所得による納税義務が生じるので注意が必要です。

デッドクロスが発生したあとに不動産を売却したケース

デッドクロスとは、ローンの元金返済額が減価償却費を上回る状態のことです。不動産には法定耐用年数が設けられていますが、一定年数が過ぎると減価償却費用の計上が不可能となります。そして、帳簿上黒字運用できているのにも関わらず、納税額が増加していき、最悪の場合破産する恐れがあります。予期せぬ損失を防ぐためにも、デッドクロスを迎える前に、不動産の売却を推奨します。

アメリカ・ハワイの中古物件で税金対策を始めるケース

不動産投資の節税スキームとして、アメリカ・ハワイの中古物件を購入する事例が注目を集めていました。日本の中古物件は、流動性が低いことや、売却先が見つからないケースがあります。一方、アメリカ国内では、流動性が高く、築年数が22年以上の木造物件に関して、4年間での減価償却が可能です。

しかし、令和2年度の「税制改正大綱」が発表された結果、アメリカに限らず、海外不動産で生じた減価償却費の計上が認められなくなりました。今後、海外不動産における減価償却費を活用した税金対策が不可能となるので注意しましょう。

まとめ

特に国内での不動産投資を成功させるためには、税金対策が重要となります。減価償却費を含む経費の計上や、各種制度の活用、法人化といった方法を取ることで、節税効果を高められます。

一方で、税金対策をしっかりと把握しておかないと、思わぬ失敗につながる危険性があります。不動産投資の専門家や税理士にも相談しながら、正しい税金対策を講じるようにしましょう。

※1:主な減価償却資産の耐用年数表

※2:贈与税の計算と税率(暦年課税)

※3:配偶者の税額の軽減

※4:譲渡所得の計算のしかた

※5:法人税の税率

※6:所得税の税率